ホーム > インフォメーション > フルート首席奏者 斉藤和志が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」(1)

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2021年8月31日(火)


――ブラームスの交響曲の特徴について。


フルート首席奏者 斉藤和志 Ⓒ上野隆文

 「ブラームスの曲の特徴のひとつとして、リズムに大きなうねりがあることがあげられます。これはいわゆるワーグナー派がブラームスの曲を肯定的に評価しなかった理由のひとつかもしれません。同じドイツ人でもワーグナーやブルックナー、ウェーバー等は、がちっとした建築物を構築するようなスクエアなリズム感を持っているのに対し、ブラームスは重厚な音楽を作るという点は共通するものの、リズムに独特の大きなうねりがあります。R.シュトラウスなどにも同様の特徴がみられますが、情熱、浪漫、感傷……さまざまな表情や感情をそのうねりのあるリズム感のなかに落とし込むことができれば、ブラームスの曲の魅力はより光ってくるのではないでしょうか。

 そして、特にこの後期の交響曲においては、分かりやすいキャッチーなメロディをドーンと前面に押し出すようなものではなく、精緻に織り込まれた織物のように完成された形を持っています。そのぶん、その織物のそれぞれの『糸』にあたる各楽器の役割についても曲全体の和声の流れに関しても、複雑に入り組んでいて整理して理解するのが難しい部分があります。
 単に明るい部分、暗い部分というふうにシンプルに分けられる場合ばかりではなく、微妙なゆらぎの中で調性も表情も常に移り変わっていきます。驚くのは、そのすべてが高度に計算されていて時に大胆な試みもなされているのに、聴いている側には実に自然に聴こえるということです。
 ですので、演奏にあたっては、それぞれの楽器、パートが、ここぞとヴィルトーゾを見せびらかしたり、過度に朗々と歌い込んで音色や技量を魅せる、ということよりも、ひとりひとりが楽曲全体を理解し、そして自分がその中でどのような役割を持っているのかをあらゆる瞬間に把握して、必要とされる音を表現していくことが大事になってきます。しかし、それは計算高く設計図通りに物を配置したようなものではなく、全体がひとつのいきいきとした感情と動きを持った生物のようなものとして、しかもそれを完全な調和のなかで表現する必要があるのです」。


――交響曲第3番、第4番について。

 「第3番は演奏時間が短いせいもあってか、演奏機会が少なく、ブラームスの交響曲の中では比較的印象が薄いと思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。初演の際に第3番だからか『これはブラームスのエロイカ』だと評した方もいらっしゃいましたが、実際に演奏してみると少し印象は異なります。
ベートーヴェンの偉大さに苦悩して難産の末に生まれた第1番、そして、まるでその呪縛から解き放たれたような開放的な明るさの第2番という前回の7月定期演奏会で演奏された2曲に対し、この第3番は、エロイカ的な何かを表出するような曲ではなく、より自己の内面と向き合い、そこから答えを見出そうとした曲だと個人的には感じます。

 交響曲をツィクルスで演奏するというのは、その作曲家の人生を追体験するという印象を持つことがあります。さきほどの第3番での内面への探索は、第4番ではさらに深みに達し、まるで人生そのものを理解したかのような境地に達しているとさえ感じます。かつてマエストロが第4番は『鷲が高いところを悠々と飛んで人の人生を見下ろしているかのようなシンフォニー』だとおっしゃっていたのが印象的です。この曲においては和声的には場合によっては現代音楽すれすれと思えるようなさらに凝ったこともしていますが、やはり聴いている方にはそれを感じさせないのには驚かされます」。

Part 2 へ続く



©上野隆文


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7月定期演奏会

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7月1日[木]19:00開演(18:15開場)
東京オペラシティ コンサートホール
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7月2日[金]19:00開演(18:15開場)
サントリーホール
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7月4日[日]15:00開演(14:15開場)
Bunkamura オーチャードホール

指揮:チョン・ミョンフン
(東京フィル 名誉音楽監督)

― ブラームス交響曲の全て ―

ブラームス/交響曲第1番
ブラームス/交響曲第2番



9月定期演奏会

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9月16日[木]19:00開演(18:15開場)
東京オペラシティ コンサートホール
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9月17日[金]19:00開演(18:15開場)
サントリーホール
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9月19日[日]15:00開演(14:15開場)
Bunkamura オーチャードホール

指揮:チョン・ミョンフン
(東京フィル 名誉音楽監督)

― ブラームス 交響曲の全て ―

ブラームス/交響曲第3番
ブラームス/交響曲第4番





主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)| 独立行政法人日本芸術文化振興会
   公益財団法人 ローム ミュージック ファンデーション(7/2,9/17公演)
   公益財団法人 三菱UFJ信託芸術文化財団(7/2,9/17公演)
   公益財団法人 花王 芸術・科学財団(7/2,9/17公演)
協力:Bunkamura(7/4,9/19公演)

公演カレンダー

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