――マエストロ　チョン・ミョンフンとの共演について。

　「マエストロ チョン・ミョンフンが1年4か月ぶりに来日された前回の7月定期には、私は出演していませんでしたが、リハーサル初日を見学しました。マエストロの登場によって楽員が高揚し、その高揚は演奏にも如実に表れていたように感じました。

　マエストロの発する言葉は慎重に選ばれ、シンプルでありながら非常に音楽的に高度な要求をしていたように思います。それぞれが、楽器奏者としてではなく音楽家としてどう反応するかということが求められ、鋭い眼差しに心の奥底を見抜かれているような感覚になりました。自分も普段タイミングやバランスばかりを気にしてしまっているということを反省しました。つい『仕事』になってしまうオーケストラを、わずか数分で『音楽』の世界に連れていった魔法を目撃することができました。
　9月に自分がここにティンパニ奏者として座ったときに何ができるのか…マエストロの鋭い眼差しによって“蛇に睨まれた蛙”になったとしても、少しは跳ねることのできる蛙でいたいなと思いました」。

――ブラームスの交響曲についてお聞かせください。

　「ブラームスの交響曲には特有の匂い、香りがあるように思います。どこかの国や民族の香りではなくブラームスの匂いがする気がしています。
　特に、交響曲第4番の冒頭。一瞬で充満する、濃厚であり心地のよい香り。第4番は他の交響曲と違い、なかなか最初ティンパニが登場しません。こんな濃密な音楽にティンパニの入る隙なんてないじゃないか、どうしよう！…と思っていると、落ち着いた頃にこっそり小さく入ってきます（笑）【譜例】。

【譜例】交響曲第4番、第1楽章では107小節目で初めてティンパニがpp（ピアニッシモ）で登場する

　一般的にティンパニといえば『リズムの柱』、『ハーモニーに厚みと迫力をつける』、といった役割がやはり多いように思いますが、ブラームスはそれに加えてティンパニに『歌う』ことを強く求めているように思います。決して効果音になることなく、オーケストラの底で、ベートーヴェンとはまた違う種類の内向的な大きなエネルギーを伴って歌うことが必要なのではないかと今は思っています。

　マスクが生活必需品となり一年以上が経過し、街の匂い、季節の匂いについ鈍感になってしまう日々かと思います。マエストロの魔法にかかったオーケストラの奏でるブラームスから、耳で香りを感じて頂くことができたらとても幸せに思います」。

【特集】

7月定期演奏会

7月1日［木］19:00開演（18:15開場）
東京オペラシティ コンサートホール

7月2日［金］19:00開演（18:15開場）
サントリーホール

7月4日［日］15:00開演（14:15開場）
Bunkamura オーチャードホール

指揮：チョン・ミョンフン
（東京フィル 名誉音楽監督）

― ブラームス交響曲の全て ―

ブラームス／交響曲第1番
ブラームス／交響曲第2番

9月定期演奏会

9月16日［木］19:00開演（18:15開場）
東京オペラシティ コンサートホール

9月17日［金］19:00開演（18:15開場）
サントリーホール

9月19日［日］15:00開演（14:15開場）
Bunkamura オーチャードホール

指揮：チョン・ミョンフン
（東京フィル 名誉音楽監督）

― ブラームス 交響曲の全て ―

ブラームス／交響曲第3番
ブラームス／交響曲第4番

主催：公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成：文化庁文化芸術振興費補助金（舞台芸術創造活動活性化事業）| 独立行政法人日本芸術文化振興会
　　　公益財団法人 ローム ミュージック ファンデーション（7/2,9/17公演）
　　　公益財団法人 三菱UFJ信託芸術文化財団（7/2,9/17公演）
　　　公益財団法人 花王 芸術・科学財団（7/2,9/17公演）
協力：Bunkamura(7/4,9/19公演)