ホーム > インフォメーション > コントラバス首席奏者 黒木岩寿が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」

インフォメーション

2021年7月2日(金)


――ブラームスの楽曲の特徴について。


コントラバス首席奏者 黒木岩寿 Ⓒ上野隆文

「ブラームスの父親はコントラバス弾きだったので、家でも日常的に低音がどこかで鳴っていたのかも知れません。それが関係あるかは分かりませんが、ブラームスのほとんど全ての曲は中低音に厚みが必要とされます。そこがベートーヴェンと少し違うところで、その厚みをどうやって出すかが大事になってきます。そのために、音量はffだけれども、ただ音が大きいだけでない柔らかく響きのあるffを出そうと心がけています。楽譜に書いてある『音』がどのような音なのか、その質感をもっと追求しなければなりません。

 コントラバスは和声を司ることが多いのですが、ブラームスは和声の運び方が非常に繊細だと弾いていて感じます。例えば1から10へ行くのに、普通なら1、5、10と真ん中に一個入れるくらいで済ませてしまう所を、ブラームスは10へ行くまでに1、3、5、7、9、10と和声に細かく紆余曲折があります。その紆余曲折さ加減が深いのです。けれども、パッと聞くとそこまで複雑だとは思わせない、そこがブラームスのすごいところですね。リズムも同じで、単純そうに思えてヘミオラを多用したりと、実はすごく複雑です。複雑なリズムの上に、音が跳躍する所が多いので、ヴァイオリンの方々は大変だと思います。けれども、コントラバスは弾きやすいし、鳴りやすい。ブラームスの低弦は全部いいのですよね、本当に。

 渋いところではありますが、個人的には第1番第4楽章の29小節目の1、2拍目から3拍目、A♮からA♭に移動するところをぜひ聴いていただきたいです【譜例1】。A♭はコントラファゴットとチェロとコントラバスにしかありません。ここは弾いていてぐっと来ますよ。1、2拍目までは自然に対する畏怖があるのに、それがA♭になった瞬間に全てなくなるのです。今までグレーだった世界に、ここのA♭で急に陽が照ってくるような。もうたまりません」。

【譜例1】




――ベートーヴェンとの違いについて。

 「ベートーヴェンの楽曲からは心臓の鼓動のようなものを感じますが、ブラームスからは大自然の色彩を感じます。本質的にはベートーヴェンにはヴェルディに似た骨太さがあると思いますが、ブラームスからは強固でがっしりとした骨太さではなく、絶えず揺れ動き変化するような自然が想起されます。
 ベートーヴェンの特に後期の四重奏曲は、自然を通り越して宇宙にたどり着いているようにすら思えます。耳が聞こえないからか、自分で想像してどんどん思考を内へ内へと深めていく。崇高すぎて、まるで神が宿っているようにすら思えます。
 ブラームスはベートーヴェンを尊敬し、超えたいと思っていたからこそ、ベートーヴェンとは違う自分の音楽世界を見出すのに大変だったと思います。それが曲を書いていくうちに自然にヒントを得るようになって、これが自分のスタイルだと理解していったのではないでしょうか。
 第2番は大自然からインスピレーションを得ていると感じます。大自然に囲まれた避暑地で作曲したからか、風光明媚な感じが現れている。第2番第3楽章最後のヴァイオリンのメロディは最高ですね。Fのあと7個目から、4楽章の寸前です【譜例2】。このメロディはもう本当に秋というのか、紅葉で有名な京都の永観堂にひとり佇んでいて、枯葉の色が痛いくらい染みてくるような、人生の悲喜交交がこの瞬間に感じられます」。

【譜例2】





――マエストロ チョン・ミョンフンとのブラームス演奏について。

 「マエストロの指揮はシンプルの一言に尽きます。以前よりも振り数が少なくなって、どんどんシンプルになっていると感じます。普通だったら饒舌に言葉を尽くしてしまうところを、一言で言える明快さ、それがすごいですよね。『音のない休符に音楽はある』とマエストロはリハーサル中におっしゃっていて、今回のブラームスでは特に『休符』をオーケストラの皆で大事にしています」。


 ©上野隆文



【特集】

名誉音楽監督 チョン・ミョンフンが語る「ブラームス 交響曲の全て」
名誉音楽監督 チョン・ミョンフンとの「ブラームスの歩み」
コンサートマスター 三浦章宏が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」
コンサートマスター 近藤 薫が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」
コンサートマスター 依田真宣が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」
第2ヴァイオリン首席奏者 戸上眞里が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」
第2ヴァイオリン首席奏者 藤村政芳が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」
第2ヴァイオリン首席奏者 水鳥 路が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」
ヴィオラ首席奏者 須田祥子が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」
ヴィオラ首席奏者 須藤三千代が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」
ヴィオラ首席奏者 髙平 純が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」
チェロ首席奏者 金木博幸が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」
チェロ首席奏者 服部 誠が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」
チェロ首席奏者 渡邉辰紀が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」
コントラバス首席奏者 片岡夢児が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」
フルート首席奏者 神田勇哉が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」
フルート首席奏者 斉藤和志が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」
オーボエ首席奏者 荒川文吉が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」
オーボエ首席奏者 佐竹正史が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」
クラリネット首席奏者 アレッサンドロ・ベヴェラリが語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」
クラリネット首席奏者 万行千秋が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」
ファゴット奏者 井村裕美が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」
マエストロチョン・ミョンフンとの「ブラームス 交響曲の全て」ホルン・セクションに話を聞きました。
トランペット首席奏者 川田修一が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」
トロンボーン首席奏者 五箇正明が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」
トロンボーン首席奏者 中西和泉が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」
ティンパニ奏者 岡部亮登が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」
ティンパニ奏者 塩田拓郎が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」

7月定期演奏会

チケットを購入
7月1日[木]19:00開演(18:15開場)
東京オペラシティ コンサートホール
チケットを購入
7月2日[金]19:00開演(18:15開場)
サントリーホール
チケットを購入
7月4日[日]15:00開演(14:15開場)
Bunkamura オーチャードホール

指揮:チョン・ミョンフン
(東京フィル 名誉音楽監督)

― ブラームス交響曲の全て ―

ブラームス/交響曲第1番
ブラームス/交響曲第2番



9月定期演奏会

チケットを購入
9月16日[木]19:00開演(18:15開場)
東京オペラシティ コンサートホール
チケットを購入
9月17日[金]19:00開演(18:15開場)
サントリーホール
チケットを購入
9月19日[日]15:00開演(14:15開場)
Bunkamura オーチャードホール

指揮:チョン・ミョンフン
(東京フィル 名誉音楽監督)

― ブラームス 交響曲の全て ―

ブラームス/交響曲第3番
ブラームス/交響曲第4番





主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)| 独立行政法人日本芸術文化振興会
   公益財団法人 ローム ミュージック ファンデーション(7/2,9/17公演)
   公益財団法人 三菱UFJ信託芸術文化財団(7/2,9/17公演)
   公益財団法人 花王 芸術・科学財団(7/2,9/17公演)
協力:Bunkamura(7/4,9/19公演)

公演カレンダー

東京フィルWEBチケットサービス

お電話でのチケットお申し込みは「03-5353-9522」営業時間:10:00~18:00 定休日:土・日・祝