ホーム > インフォメーション > コンサートマスター 近藤 薫が語る チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」(2)

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2021年9月9日(木)

 

――「ブラームスは本当に内向的なのか」


コンサートマスター 近藤 薫 Ⓒ上野隆文

 「ブラームスのイメージとして『内向的だ』とよく言われますよね。中声部をよく使って、ある意味渋い音がする。あとは『くよくよしてそう』『なよなよしてそう』とか。実際に、ベートーヴェンのようにストレートにフォルテを連発することはないですし、曲によってはフォルティシモも出てこない。そして、メロディがものすごく甘美。でも、それは一側面で、私が思うに、ブラームスの音楽は、そういうことが、確信犯的というか『そう聞こえるように書いています』ということだと思うんです。
 ブラームスの恩師のシューマンは非常につらい人生を送っていましたよね、精神を病んだり。けれど彼の音楽は『つらい』ということをあまり言わない。『こんなに美しい花が咲いていたよ』とかいうことをいつも家族に言って、たまに小さな声で(・・つらい)と。つらいというのが聞こえない。それがシューマン。
 それに比べると、ブラームスというのは、『くよくよしてるんですよ』って相手の目を見て言う感じ。なかなかそういう人はいない。意外と、大胆な人です。演奏していても、あまりに甘美なメロディに身を寄せたくなるのですが、甘ったるいだけの人ではない。だから骨格がしっかりして聞こえる。ロマンに流されていないですね。ずっと“自画像ばかり描いていた”人なんじゃないかと思います。つまり、いつでも自分と向き合っていた。それって結構辛い作業だったと思うんです」。




――ブラームス自身を描いた交響曲、第3番


ヨハネス・ブラームス(1833-1897)

 「ブラームスが交響曲を書く時に頭にあったのは偉大なベートーヴェンの9曲の交響曲です。第1番を書き上げるのに20年と言う長い月日を費やしています。書いて、やめて、また書いて、という繰り返しで20年経っていたということだと思いますが、とことん他人(ベートーヴェン)と向き合ってしまった、ということではないでしょうか。ですから、すごく苦しかったということもあっただろうと思います。第1番、書きたくなかったのでしょうね。かたや、第2番はすごく解放されてハッピーです。
 そして第3番になると、ついに自分の本性、人の本性を知るんです。
 人はそもそも矛盾を抱えている。交響曲第3番第1楽章は6拍子ですが、2×3拍子だったり3×2拍子だったり、それが混在していたり。――私は演奏会を楽譜を見ながら聴くことっておすすめしないのですが。音楽って一瞬で消えるから。もし楽譜を見ながら聞く場合はご自宅で録音で楽しんでみていただければと思いますが――混在することで絡み合い、複雑性が表現されます。挙句は6拍目から始まってしまったり。まるで6拍目が1拍目みたいに聞こえるんです。狂気の沙汰ですよね。なんでこんなこと書いたんだろう、と。なにか『こうじゃない、こうじゃない』という思いがあったのではないかと思います。これも、『ひねくれてますから』と言い切れるというブラームスのすごいところですが。
 もし、目の前にひねくれているやつがいたらあんまり友達になりたくないと思うかもしれないけど、彼(ブラームス)は共感させちゃうっていうのがすごいですよね。『俺もそういうとこあるよな』、と、こちらに思わせる」。



――人生の総決算、「第4番」

 「第4番では、だんだんいろいろなものを背負い出すというか、人生の総決算みたいになってくるというか、自分が生きてきた証というのが第4番なのではないかと思います。第3番は静かに終わるでしょう。とてもプライベートな曲だと思います。いろいろなことがあって、胸にしまっておしまい。第4番は総決算。全てが含まれているんですよね、『1+2+3=4』みたいな。それまで築き上げてきたものの全て。賛否あるかもしれませんが、墓標と言ってもいいかもしれません。第4番冒頭のヴァイオリンは『シソ、ミド、ラファ、レシ』、と、つなげると3度の下行音形になるのですが【譜例】、実はこれはお亡くなりになった時の音なんです。

【譜例】



 第2楽章は時々、こう、ホルン・・角笛の音が聞こえる、少しロンターノであって、牧歌的な。こういうのをブラームスはよく書く。遠い記憶というか、マーラーにもよく出てくるような音ですね。非常にシンプルな弦のピッチカートが聞こえてくる。
 それから第3楽章は非常にアクティブというか、若い頃にあまり書かなかったような音楽だと思います。歳を経てちょっと素直になったのかもしれません。元々ハンガリー舞曲のようなものも書いていましたからね。中世みたいな響きもする・・と思ったら4楽章でパッサカリアが登場する。旧時代の音楽ですよね。J.S.バッハ、ベートーヴェン、ブラームスで3大Bと呼ばれていますが、この第4番を書かなかったら3大Bとは言われなかったかもしれない。ここで、この系譜が繋がります」。


(Part 3 へ続く)




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7月定期演奏会

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7月1日[木]19:00開演(18:15開場)
東京オペラシティ コンサートホール
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7月2日[金]19:00開演(18:15開場)
サントリーホール
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7月4日[日]15:00開演(14:15開場)
Bunkamura オーチャードホール

指揮:チョン・ミョンフン
(東京フィル 名誉音楽監督)

― ブラームス交響曲の全て ―

ブラームス/交響曲第1番
ブラームス/交響曲第2番



9月定期演奏会

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9月16日[木]19:00開演(18:15開場)
東京オペラシティ コンサートホール
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9月17日[金]19:00開演(18:15開場)
サントリーホール
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9月19日[日]15:00開演(14:15開場)
Bunkamura オーチャードホール

指揮:チョン・ミョンフン
(東京フィル 名誉音楽監督)

― ブラームス 交響曲の全て ―

ブラームス/交響曲第3番
ブラームス/交響曲第4番





主催:公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)| 独立行政法人日本芸術文化振興会
   公益財団法人 ローム ミュージック ファンデーション(7/2,9/17公演)
   公益財団法人 三菱UFJ信託芸術文化財団(7/2,9/17公演)
   公益財団法人 花王 芸術・科学財団(7/2,9/17公演)
協力:Bunkamura(7/4,9/19公演)

公演カレンダー

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